「BCGが新型コロナウイルス感染症に有効」に根拠はあるか
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にBCGワクチンが有効だとする研究結果が報告されています。そのため重症化のリスクが高く、ワクチン接種歴のない人から接種を希望する声が上がっているようだ。こうした動きに対し日本ワクチン学会は4月3日に、COVID-19にBCGワクチンが有効ではないかという仮説は科学的に確認されておらず、現時点では否定も肯定も推奨もできないとの見解を示しています。BCGワクチン接種とCOVID-19リスクの低下に関連はあるのか。なぜBCG株の種類により死亡者数に違いが出るのか、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授の宮坂昌之氏は、これまでの知見を集積し発表されました。
BCGワクチンの「訓練免疫」が関係か
これまでに、BCGワクチンの接種は、結核への効果に加え、それ以外の疾患に対しても有効であることが報告されています。 BCGワクチンは、免疫システムを変化させ、感染に対する防御反応を高めていると推察されています。自然免疫系においてBCGワクチンが、炎症性サイトカインをコードする遺伝子の領域に働きかけ、その分泌を促しているといわれ、このプロセスは「訓練免疫」と命名されています。
日本株などの前期分与株が有望
現在使用されているBCGワクチンは、1921年にパリのパスツール研究所で最初に製造された。その後、原株は世界中のさまざまな研究所に分与され、各国で継代培養されたが、分与の時期により「前期分与株」と「後期分与株」に分類される。COVID-19の死亡者数抑制に寄与しているとされる日本株とロシア株は、いずれも前期分与株。一方、寄与度の低いデンマーク株は後期分与株です。
前期分与株と後期分与株は、遺伝的形質および表現型が異なるという複数の報告があります。例えば、前期分与株である日本株とロシア株は、後期分与株に比べ生菌数がはるかに多いとされています。これは、前期分与株は後期分与株よりも免疫応答を刺激しうる物質が豊富であり、「訓練免疫」が発揮されやすい可能性を示しています。
BCG以外の寄与も
ある研究者は「正確な作用機序は不明だが、日本株のような特定のBCG株が、結核菌のみならず、それ以外の病原体に対しても免疫を誘導する可能性がある。そう考えると、特定のBCG株がCOVID-19などの感染症リスクを大幅に低減させうるという仮説の説明がつく」とコメントしています。
しかし、フィンランドとオーストラリアのデータは、この仮説に矛盾します。フィンランドは2006年に、オーストラリアは1980年代半ばに、それぞれ全国民へのBCGワクチン接種プログラムを中止しています。それにもかかわらず、COVID-19による死亡者数は低く抑えられています。この点について先の研究者は「COVID-19による死亡者数の抑制に寄与するのは、BCGワクチン接種だけではないことは明らかだ」とし、その要因として、両国の共通点である
①優れた医療システム
②人口密度の低さ
を挙げています。
現在世界中で様々な有用と思われるワクチンや治療薬が治験を行われています。BCGワクチンもその中の一つですが、その有用性はまだ明らかではありません。一方BCGワクチンを求める人のため、本来BCGワクチンが必要な乳児に行き渡らないことが懸念されています。副反応が出現する可能性もあり、有用性が明らかになるまでは見込みで医療機関に接種を求めることは避けてください。