メトホルミンに大腸がん予防効果
[2020.09.06]
代表的な糖尿病の治療薬にメトホルミンというお薬があります。このメトホルミンは以前からある種の癌の発症を抑制するのではといわれておりましたが、今回メトホルミンによるヒト大腸腫瘍の予防効果と安全性が世界で初めて証明されました。これは横浜市立大学肝胆膵消化器病学の日暮琢磨氏らが、低用量メトホルミンが安全に非糖尿病患者において,ポリペクトミー後のポリープ・腺腫の新規発生を抑制することを確認したと第102回日本消化器病学会総会で報告しました。
大腸がんの予防として内視鏡による早期検査・診断と早期治療により大腸がんの死亡率を低下させられますが、ポリペクトミーを施行した患者は高リスクとなることが新たな問題となっています。そこで日暮氏らは生活習慣を改善するのではなく、特定の栄養素や医薬品の投与によってがんを予防する化学予防について研究を行っています。化学予防薬に必要な条件には①副作用が少ない②コストが低い③服薬コンプライアンスが高い④薬物の作用機序が明らか―などが挙げられます。これまで大腸がんの化学予防薬としてCOX-2阻害薬という鎮痛剤がアスピリンよりも良好な予防効果を示しましたが、重篤な心血管イベントが増加することが報告されたことにより、化学予防薬として確立されていません。
今回、日暮氏らは糖尿病や多嚢胞性卵胞症候群(PCOS)などの治療に用いられているメトホルミンに注目し、大腸腫瘍の化学予防効果を検討するRCTを実施したところ、新規ポリープ発生を3割抑制されました。
臨床試験では、大腸ポリープの内視鏡切除歴がある患者151例を低用量メトホルミン群(250mg/日)79例とプラセボ群72例にランダムに割り付け、1年間投与した後に最終解析を行いました(メトホルミン群71例,プラセボ群62例,計133例)。1年後のポリープ・腺腫の新規発生率を見ると、全ポリープの新規発生率はメトホルミン群38%、プラセボ群56%で、メトホルミン群で有意に低い結果でした。さらに腺腫の新規発生率もそれぞれ31%、52%で同じくメトホルミン群で有意に低い結果となりました。また副作用に関しても発疹、便秘などの副作用が両群で発生したが、いずれも軽度でした。
以上から、日暮氏は「低用量メトホルミンは非糖尿病患者で安全にポリペクトミー後のポリープ・腺腫の新規発生を抑制した。低用量メトホルミンは非糖尿病患者においてもインスリン抵抗性の改善が見られる患者に対してポリープ・腺腫の新規発生を予防する効果が高い可能性がある」と述べています。
私たち日本人は長生きできるようになり、また食事の欧米化などから大腸がんは増加傾向にあります。大腸がんの危険性が高い方は、今後の研究次第では糖尿病でない方もこういったお薬で予防を行うということもあるかもしれませんね。ただ現在はまだ糖尿病や多嚢胞性卵胞症候群ではない方はメトホルミンの投与は認められておりません。今後のさらなる研究とデータ収集が待たれます。